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TalesWeaverとかのBlog 作画:那智とん


by yurumate

迷信

「絶好のデート日和ね」
黒いドレスに黒い日傘、金の髪に真紅の瞳。
彼女は機嫌良さそうに公園を歩く。
「もう!早くしないと置いてっちゃうわよ!」
そんな彼女は自称吸血鬼である。
説得力ゼロだ…。
「自称吸血鬼だろ。お前。灰になったりしないのかよ」
「バカね。ネギは」
いきなりバカ呼ばわりだ。
俺にしてみれば、お日様の下を機嫌良さそうに歩いている、
自称吸血鬼の方がよっぽどバカバカしい存在に思えるのだが。
「常識的に考えなさい。日光を浴びて灰になる生き物がいるワケないじゃない」
お前の存在の方がどう考えても非常識だと思うのだが。
でも、アリスがいてよかった。本当に少しだけど幸せな気持ちになる。
絶対にもう、俺には幸せなんて訪れないと思ってた。
でも、あの日があったから、俺は今、笑えるんだ。
「何、ニヤニヤしてるの?気持ち悪い」
「幸せだなと思って」
目つきの悪い黒い少女は、少し嬉しそうな顔をして、
俺の手を取った。
たまには目的もない散歩もいいな。
二人で、ベンチに座った。
「なぁ、お前、本当に吸血鬼なのか?」
「そうだけど。何か腑に落ちない点でもあるワケ?」
沢山ある。
日光に当たっても灰にならない。
十字架を怖がらない。
犬を見ても敵意を出さないどころか積極的に触りに行く。
よく言われる吸血鬼の基本的な弱点が彼女にはない。
「お前、ニンニクとかも平気なの?」
「ペペロンチーノとかおいしいわよね。今夜作ってあげるわ」
絶句。
絶対、コイツ吸血鬼じゃない。
「お前、弱点とかないの?」
「特にないわ。なんでそんなに私の弱点を知りたがるのよ」
別になんでってワケじゃないけど、
吸血鬼だってことが信じられないからだ。
ありすの記憶を共有していることは、この2日の生活で分かったが、
それだけじゃあ、証拠にならない。
結局、何も分からないまま日は暮れようとしていた。
「暗くなるわ。早く帰りましょう」
「別にいいじゃないか。ゆっくりすれば」
何やらそわそわしているアリス。
「いいから、帰りましょう」
何が彼女をそんなに急がせるのか、その時はわからなかったが、
疑問はその夜、あっさり氷解する。

午前0時を回ろうという頃。
コンコン。
寝室のドアを叩く音がする。
「…誰だ?」
ドアを開けると、
「怖いから一緒に寝て…」
まくらを抱きしめて、アリスが小さくなっていた。
夜を恐れる吸血鬼。
どこまでも自称吸血鬼なアリスだった。
「棺桶には入らないぞ」
「棺桶なんかで寝ないわよ…」
棺桶で寝ないんだ。
現代の吸血鬼は、進歩しているのだな。
隣ですやすや眠るアリスを見てそう思った。
by yurumate | 2007-11-25 01:56